第4回 LIXIL国際大学建築コンペ

竣工レポート

カリフォルニア大学バークレー校「NEST WE GROW」竣工レポート

次世代サステナブル住宅の技術を模索、検証する「LIXIL国際大学建築コンペ」。LIXIL住生活財団が主催する世界の建築系大学を対象にした実施コンペです。第4回目のテーマは「プロダクティブ・ガーデン──大樹町を五感で味わう空間」。北海道大樹町にある研究施設「メム メドウズ」の敷地に世界9カ国12校の参加大学から提案を募りました。2014年4月25日に開催された公開審査会の結果、カリフォルニア大学バークレー校の「NESTWE GROW」が最優秀案に選ばれました。審査委員は隈研吾氏、野城智也氏、進士五十八氏、小山薫堂氏。5月から学生メンバーが来日、隈研吾建築都市設計事務所の協力のもと、実施設計を行いました。その過程で、構造家の新谷眞人氏やエネルギーマネジメントを専門とする東京大学の馬郡文平氏との打合せも重ねました。メンバー2名は建設段階を通じて大樹町で暮らし、地元の高橋工務店の方々と打合せをしながら、建設を行いました。また地元住民の協力のもと、地域の農業や食文化に触れ、「NEST WE GROW」のコンセプトである“地場産の食材の巣”をつくり上げ、11月22日に竣工式を迎えました。

2014年11月22日に開かれた「NEST WE GROW」の竣工式。
竣工式には隈研吾氏(写真手前左)、野城智也氏(右)が大樹町に訪れ、指導教官のデイナ・バントロック氏(前列右から2人目)、学生メンバー5人、さまざまな関係者とともに竣工を祝った。
NEST WE GROW

大学の文化が大樹町で結実 (審査委員長 隈研吾氏)

「NEST WE GROW」は図面で見ていたよりも抜群に大きく、最上階に上がると海が見え、大樹町の自然の豊かさを満喫できます。もうひとつの特徴は、半開放的な空間の可能性をいろいろと見せてくれることです。通常の半開放的な空間では、温度や湿度、照度などさまざまなレベルで環境をコントロールしますが、これからの建築は機械によって完全に制御される20世紀的スタイルとは異なる必要があります。この建築は機械に頼らず、人間に快適な半開放空間を実現した世界に誇れる事例だと思います。さらに素晴らしいことは、食べ物との関係で成立していることです。バークレーは、1971年にアリス・ウォーターズが世界ではじめてシェパニーズ(Chez Panisse)というオーガニック・フードを提供するレストランをこの土地に開き、これまでオーガニック・フードの最先端を率いてきました。そういったバークレーのオーガニック・フードの歴史がここ大樹町で結実したともいえます。この建築は、これからこの土地が日本のオーガニック・フードの生地になる、そんな可能性を感じさせます。


NEST WE GROW
設 計
指導教官
学 生


設計監修
カリフォルニア大学バークレー校
Dana Buntrock, Mark Anderson
Hsiu-Wi Chang, Hsin-Yu Chen,
Fanzheng Dong, Yan Xin Huang,
Baxter Smith, Max Edwards
隈研吾建築都市設計事務所、オーク構造設計事務所(構造設計監修)

「NEST WE GROW」 コンセプト

食べ物のライフサイクルをつくる“NEST”

“NEST WE GROW” は、食べ物によってかたちづくられ、食物のプログラム──育て、収穫し、貯蔵し、調理して食べ、堆肥とし、始まりに戻るという地場産の食べ物のライフサイクル──に沿って設計された。ライフサイクルの各段階はすべて、地域住民の手助けを借りて行う。そうすることで、この建物を1年を通じたグループ・ラーニングの場にできると考えた。
地場産の食材が「NEST(巣)」の外壁をかたちづくり、人びとはそこに地面から浮かび上がった「食材の森」を見る。建物の基壇部の壁は、周囲の地形と相まって冬の北西の風を遮る。この地域は北海道の中でも農作物の生長期が短いため、ファサードと屋根を半透明のポリカーボネート板にすることで厳冬期まで生長期を延長できるようにした。ファサードと屋根には可動パネルを設け、夏や冬の晴れた日には熱気を外に逃すこともできる。
漏斗状の屋根は、雨水や融雪水を集め、タンクへと運び、その水は植物の灌漑に使われる。屋根のかたちは、大気と水そして光として自然を採り入れることで、 内外の環境に関係性をつくりだす「NEST」の機能の象徴なのだ。

構造について

コンセプト段階から竣工までを通じて、この建築においてあらゆる面で最も重要な要素のひとつが、建物を支える柱構造とその接続方法だった。
「NEST」の主要構造は9本の混構造の柱である。これらは、日本のカラマツ林の再生を思い起こさせる。柱はそれぞれ150mm角の日本カラマツの集成材4本を鋼板プレートで接続したものである。こうすることで強度が増すと共に、建設段階における施工効率も向上する。ここに、75×250mmの合わせ梁を等間隔で貫入させることで、モーメント接合としている。水平方向の剛性は、外壁にそったキャットウォークが筋交いとして働くことによって保たれる。これらが一体となって、「NEST」の構造的堅牢性が確保されているのである。

コミュニティのためのキッチン

地上階にはコミュニティのためのキッチンとダイニングテーブルがあり、地上から3.3mの高さには囲炉裏を囲みながら人びとが集まり食事を楽しむスペースがある。大きなキッチンは地上階のコンクリート壁に埋め込まれており、複数のグループが同時に使うことができる。また近い将来、きゅうりや豆などのつる野菜が麻ひもを伝い構成する緑の境界が囲炉裏のスペースを囲う。そこでは来訪者が北海道の自然な美しさのなかに、わが身を浸す空間体験をもたらすだろう。
コンクリートの壁は大きなプランター鉢として設計され、今後大根やカボチャなど深い根をもつ野菜が育てられる。「NEST」では、土やそこで育つ植物も建築の一部となる。プランターは可動式で、訪れた人びとが日射しや風向きなど外部状況に応じて移動させることができるようになっている。
地域に住む方がたと話し合う中で、私たちは秋蒔き小麦が比較的寒い時期まで育つことを知った。そこで、パンやパスタの原料となる秋蒔き小麦を「NEST」の中で育てることとした。来年は四季を通じて、豊かで多彩な野菜が「NEST」で育てられることになるだろう。この秋に、農家の方々と一緒に収穫した大根やニンジンは、「NEST」で吊り干しされている。また近い将来、建物は色とりどりの乾燥野菜で彩られ、「NEST」として機能しながら建物が地域住民の方に育てられることを期待している。
大樹町は海にも近く、そこで得られる食べ物はきわめて多様で豊富にある。地域の方がたからいただいた、大樹港で捕れたサケとタラを「NEST」に吊り下げ、食べ頃になるまで干している。自分の食べ物を自らの手で加工するのは貴重な体験である。今後もこの「NEST」が、人びとと食べ物との間にある建築として、食育の場、地域コミュニティの場として使われていくことを願っている。

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