第3回 LIXIL国際大学建築コンペ

竣工レポート

ハーバード大学「HORIZON HOUSE」竣工レポート

次世代サステナブル住宅の技術を模索、検証する「LIXIL国際大学建築コンペ」。LIXIL住生活財団が主催する世界の建築系大学を対象にした実施コンペです。第3回目のテーマは「大自然のリトリート」。北海道大樹町にある研究施設「メム メドウズ」の敷地に世界11カ国12校の参加大学から提案を募りました。2013年4月20日に開催された公開審査会の結果、ハーバード大学の「HORIZON HOUSE」が最優秀案に選ばれました。審査委員は隈研吾氏、野城智也氏、ダルコ・ラドヴィッチ氏。5月から学生メンバーが来日し、8週間かけて日本の文化に触れながら、隈研吾建築都市設計事務所の協力のもと実施設計を行いました。大樹町にある建設廃材を探し、地元の高橋工務店が担当して9月から建設に入り、11月23日に竣工式を迎えました。

2013年11月23日に開かれた「HORIZON HOUSE」の竣工式。 「HORIZON HOUSE」は大樹町に広がる地平線(HORIZON)をテーマにしたリトリート=日常生活から離れるための隠れ家。 審査員は隈研吾氏(写真中央)、野城智也氏(左)、ダルコ・ラドヴィッチ氏(右)。ハーバード大学からは学生3名と、指導教官のマーク・マリガン氏(左から3人目)が来日した。
HORIZON HOUSE

世界を代表するエコヴィレッジへ (審査委員長 隈研吾氏)

「HORIZON HOUSE」は2013年4月20日に最優秀案に選ばれ、設計から工事まで、驚くほどの短期間ながらも、さまざまな世界初の試みを含んで、完成しました。それはLIXILはじめ、高橋工務店、大樹町の人びとなどたくさんの協力があったからこそです。このコンペは環境問題に関心のある世界トップの大学を招待して開催され、優れた作品が集まる中、一案を選ぶことは大変でした。審査の結果、ハーバード大学の「HORIZON HOUSE」が選ばれましたが、それはこの住宅のテーマである「HORIZON=地平線」が技術面のみならず、ポエティックにも成立していたからです。この提案を見た時に、大樹町の地平線の美しさと合わさったすばらしい光景が目に浮かびました。そして本日、それが思っていた通りに体現され、この芽武の里にまたひとつ宝が増えて嬉しく思います。これからもこの土地にこのような建築が増えていくと、世界に類のないエコヴィレッジができるのではないでしょうか。これからもその過程を見守り、サポートしていければと思います。


HORIZON HOUSE
設 計
指導教官
学 生



設計監修
ハーバード大学
Mark Mulligan, Kiel Moe
Thomas Sherman, Ana Garcia Puyol,
Carlos Cerezo Davila, Robert Daurio,
Mariano Gomez Luque, Takuya Iwamura,
Natsuma Imai, Matthew Conway
隈研吾建築都市設計事務所

「HORIZON HOUSE」 コンセプト

今回のコンペは、私たちに人間と自然の密接な関係性を改めて問い直す機会を与えてくれた。最先端技術を用いて環境に配慮するだけではなく、環境技術が自然保護という社会的認知の枠を超え、建築としての新たな解釈を生み出すことを主眼に置きプロジェクトが始まった。この小さな住宅がいかにして人びとの思考と行動に影響を与え、社会と環境のサステナビリティに深く貢献できるかが、案を発展させる上で焦点となった。

デザインコンセプト

「HORIZON HOUSE」は、居住空間と大樹町の牧歌的風景が生み出す対話を象徴する。基礎部と屋根によって定義されたひと繋がりの屋内の起伏が、360°の大自然パノラマとそこに映る季節ごとの変化を居住者にもたらす。冬季に住宅の一部が雪に埋もれ、窓からの視界が遮られることを避けるため、居住空間は木製基礎によって地上1mに据えられ、すべての屋内空間から自然風景が堪能できる。

地域の資源

「HORIZON HOUSE」の建設方法は資源、建築寿命、エネルギーのあり方を再定義し、建築の生態的な境界を拡張するという考えを反映する。地域から産出される木材あるいは地域で使われなくなった廃材(鉄道枕木、牧場の木柵、廃木材など)を主な建築資材とし、この土地に根付く大自然と人びとの記憶が建物の表情として取り込まれている。これら大樹町近辺で調達可能な資源は、すべての設計段階においてデザインの前提となり、「大自然のリトリート」という解釈に大きな影響を与えた。コンクリートの使用を極力控え、地域から産出される木材を用いることで、生成・運搬・建設に伴う炭素排出量を抑え、また地域経済への貢献も可能となる。屋内の主要断熱材には地元の木材製材所から産出される木屑を利用し、住宅がいずれ自然に還ることを前提としている。地域から低エネルギーで集められた資材は組み立てだけでなく、将来的な再利用を考慮し容易に解体できるよう設計した。

基礎部

基礎部分のかたちは、3つの主要空間(玄関、キッチン─バス─夏用寝室、リビング)で区切られた高さの違う床として、屋内に表れる。屋内各所の様々な高さから自然の風景が切り取られる。この基礎部に木製枕木を利用することにより、コンクリートの使用を最低限に留めることができる。耐震のために枕木はボルトで浅く掘られた礫層に取り付けられる。当初は大樹町で使われなくなった旧広尾線の枕木を再利用することを検討していたが、クレオソートの人体への影響を考慮し北海道北部で新たにつくられた無害の枕木を使用した。

温度調整

床暖房設備は利用者の位置や身体状態によって設定が変更でき、夏季と冬季の屋外温度変化に合わせ、屋内のプログラムを切り替えることができる。この設備は薪ストーブによって生み出された熱を変換し、居住者が直接触れる床面だけを暖め、低エネルギーかつ効率的に快適さをもたらす。また屋外シェードと屋内の遮熱カーテンを調節することで夜間の熱の放出を防ぐ。屋根の木構造は非被覆工法によって雪を屋根に留め、冬季の断熱効果をもたらす。地中に掘られた通風パイプと天井の最高部に設けられた天窓を通し、一年中安定した屋内の空調環境が得られる。これらの一見単純に見える環境技術の手法は個人に高度な快適性をもたらし、 居住者は「大自然のリトリート」という「HORIZON HOUSE」の基本概念を意識する。大樹町の緑に囲まれた環境下ではサステナビリティとは単に抽象的な概念ではなく、日常生活において体験されるものであり自給的な生活、地域生態環境へも影響を与える。「HORIZON HOUSE」は滞在者に移り変わる季節変化を強く意識させ、自然との共存ということの意味を改めて問い直す。

設計プロセス

当初提案したコンセプトから実施設計へと移る上で、日本の施工技術や建築基準法などを考慮し、デザインの修正や変更を余儀なくされる場面が幾度かあった。それも含め、われわれ建築を学ぶ学生にとって隈研吾建築都市設計事務所の監修下で実験住宅をつくり上げるプロセスに携われたことは何よりも貴重な経験である。施工段階において現地で直接住宅の立ち上げに携わることはできなかったが、今夏の8週間にもおよぶ日本滞在を通し、隈先生、斉川氏、LIXIL財団の方々、大樹町役場関係者から日本の建築文化と環境意識について深く学ばせていただいた。この経験は文化の隔たりを超え、私たちが建築家として、またひとりの人間として自然と建築の調和を考える大きなきっかけを与えてくた。
(ハーバード大学 学生チーム8名)

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